2025年11月3日(月・祝)、大分県中小企業診断士協会は、ホルトホール大分 セミナールームにて「中小企業診断士の日 記念イベント」を開催いたしました。
本年のテーマは「仕事を頼みたくなる診断士とは」。中小企業支援機関、金融機関、経営者、そして診断士や診断士を目指す方々など、多くの方にご参加いただきました。
当日は、診断士1年目で売上1000万円を達成した福田大真氏による基調講演と、県内の支援機関の最前線で活躍される方々を招いたパネルディスカッションを実施し、盛況のうちに幕を閉じました。
ご参加いただいた皆様、ご登壇いただいた皆様に心より御礼申し上げます。
1. 会長挨拶
イベントは、大分県中小企業診断士協会の渡部会長による挨拶で始まりました。
渡部会長は、11月4日の「中小企業診断士の日」の意義に触れ、本年のテーマ「仕事を頼みたくなる診断士とは」について言及。「中小企業診断士は全国で約1万4千人、受験者・合格者ともに増えている人気資格」である一方、「一般的にあまり認知されておらず、診断士同士でも『どうやって稼いでいるのかわからない』と思われがち」という実態を紹介しました。
また、福田講師の著書にある診断士の年収分布(500万円以下、500~1000万円、1000万円以上が各3分の1)に言及し、「若手の方も早く1000万円以上を目指してほしい」と激励。
最後に「本日のイベントが、診断士としての自らの経営戦略を考え、活躍の場を広げるきっかけとなれば幸いである」と述べ、開幕を宣言しました。
2. 基調講演「1年生コンサル 1,000万円 稼げる秘訣」
- 講師:福田 大真 氏(株式会社モコカコンサルティング 代表取締役 / 法政大学経営大学院 特任講師)
基調講演では、ITコンサル、酒造会社、不動産業を経て中小企業診断士として独立し、1年目で売上1000万円を達成した福田大真氏にご登壇いただきました。
福田氏は、沖縄の酒造会社時代に出会った中小企業診断士・小林雄二先生のコンサルティングに衝撃を受けた経験を紹介。受発注業務の課題を話したところ、その場で業務フローの「As-Is / To-Beモデル」を書き上げ、業務改革の道筋を示されたことに「なぜこの人は、死に物狂いで2週間かかったことをその場でできるんだ」と感動したエピソードを披露しました。
講演では、「仕事を頼みたくなる」ための3つのキーワードが、具体的な事例とともに示されました。
(1) 経営者と会う前の準備(利き脳モデル)
経営者には「ハーマンモデル(利き脳モデル)」に基づき4つのタイプ(A:論理・理性的、B:堅実・計画的、C:感覚的・人間関係重視、D:冒険的・全体像重視)があると解説。
名刺交換後に4象限のシート(お金、5年後の姿、仲間、現状)を書いてもらうことで相手のタイプを判断し、話し方を変える(例:Aタイプには「結論から申し上げると」、Dタイプには「社長、九州一になれますよ!」)ことで、信頼獲得の速度が上がるとしました。
(2) 成熟度レベルの活用
「小学生にいきなり大学生の問題は解けない」という例えを挙げ、企業のレベルに合わせた支援の重要性を強調。 「成熟度レベル」を用い、客観的なレベル(例:「大手ですらレベル3。御社が1や2でも心配ない」)を共有することで、経営者が納得してステップアップできると述べました。
事例として、売上2000万円のホームページ制作会社を、社長の「成熟度レベル」の高さ(発想力)を見抜いて背中を押し、8ヶ月でDX推進企業へと変革させ、経済産業省の賞を受賞するまでに導いた経験が共有されました。
(3) 期待効果の示し方
ITが苦手でガラケーを使っていたリフォーム会社の社長に対し、無理にIT化を勧めるのではなく、「電話対応をLINEに変えれば年間204時間、時給換算で137万円の効果が出ますよ」と、その場で時間や金額に換算して見せることの重要性を説きました。 経営者は数字に敏感であり、具体的な「期待効果」を示すことで即実践につながるとしました。
3. パネルディスカッション「仕事を頼みたくなる診断士とは」
後半は、中小企業診断士の古城秀明氏の司会のもと、県内の金融機関・商工団体から支援の最前線で活躍する4名をパネリストにお招きし、パネルディスカッションを開催しました。
【司会】
- 古城 秀明 氏(中小企業診断士)
【パネリスト】
- 魚形 春菜 氏(大分みらい信用金庫)
- 福泉 慶仁 氏(大分信用金庫)
- 岩本 洋雄 氏(大分商工会議所)
- 大海 祐人 氏(大分県信用保証協会)
(1) 診断士との連携成功事例
福泉氏: 社長(70代)と後継者(40代)のコミュニケーションが取れていなかった企業で、診断士がファシリテーターとなり、面と向かっては話せなかった両者の本音を引き出し、円滑な事業承継と業績向上につなげた。
魚形氏: 金融機関は「利害関係者」であるため言いにくいことも、第三者である診断士が「ズバリと言う意見」と「寄り添い」のバランスを持って伝えてくれると心強い。面談前に「この社長の地雷はここです」といった事前打ち合わせができると、連携がスムーズに進む。
大海氏: 経営難の製造業に対し、診断士が取引先との「価格交渉」にまで同席し、赤字だった粗利を改善させた。経営者が窮地でできない「当たり前のこと」を一緒に実行してくれる、まさに「伴走支援」だった。
岩本氏: 経営者にとって専門家は「怖い、怒られる」というイメージがあるが、しっかり話を聴き、具体的な提案をしてくれる診断士は、事業者からの評価も高い。
(2) 困った事例・ミスマッチ
大海氏: 最大の問題は「経営者との相性」。どれだけ正しい提案でも、経営者が「腹落ち」して実行に移さなければ意味がない。
福泉氏: 診断士が一方的に「こうすべき」と指導し、経営者が「はい」と聞くだけの支援。実行するのは経営者自身であり、本人が「自分でできる」と思える動機付けや計画が必要。
魚形氏: 「学者肌」の診断士が、経営者の悩みよりも自身の興味(ビジネスモデルなど)を優先して質問し、経営者の腕組みが最後まで解けなかった。経営者が繰り返す「キーワード」を拾うことが重要。
岩本氏: 「上から目線」で、支援機関の担当者を「添削してあげる」対象として見たり、「奴隷みたいな扱い」をしたりする診断士がいた。結果、担当者が「心を閉ざして」しまい、連携が破綻した。
(3) 今後、仕事を頼みたい専門家像
魚形氏: 「DX・デジタル化」と「Webマーケティング」。人手不足が深刻化する中、中小企業の業務効率化や、商品・サービスの「売り方」を改善できる専門家が求められている。
福泉氏: 「創業支援」。人口減少が進む中、創業者を増やすことが不可欠。金融機関が融資判断できるような、「売上の根拠」がしっかりした事業計画策定をサポートしてほしい。
岩本氏: 「人手不足・AI活用」。採用・定着のノウハウや、AIを活用した業務効率化を支援できる専門家。また、経営者が課題として認識しにくい「事業承継」の早期着手を促せる診断士も重要。
大海氏: 「かかりつけ医的な診断士」。保証協会に相談が来る段階では「手遅れに近い」ケースも多い。企業が「悪くなる前」の早い段階で気軽に相談でき、各支援機関につないでくれるハブ(拠点)となる診断士が必要。
最後は「支援機関と診断士が個別に支援するのではなく、『ワンチーム』として連携を深めることが、大分県の中小企業を支える鍵である」との共通認識で締めくくられました。
4. 閉会・交流会
イベントプログラム終了後は、同会場にて交流会が開催されました。 講師の福田氏やパネリストを囲み、参加者同士での活発な名刺交換や意見交換が行われ、新たなネットワークが生まれる貴重な機会となりました。
大分県中小企業診断士協会として、今後もこうしたイベントを通じて関係機関との連携を深め、県内企業の発展に貢献してまいります。
